トリフォニーホール・シリーズ & サントリーホール・シリーズ

  意欲的なプログラムや深い芸術性を堪能できるシリーズ。4年目を迎えた音楽監督・佐渡裕が就任時から掲げる「ウィーン・ライン」の大作を披露するほか、開幕と終幕の女性指揮者の登場、著名作曲家の指揮者としての出演など、1年を通して興趣が尽きない。

■ #669(4月11日、12日)

669(4月11日、12日)は、新鋭女性指揮者カレン・ニーブリンの日本のオーケストラ・デビューに注目が集まる。アイルランド出身の彼女は、ロンドン響、ロイヤル・フィル等への客演をはじめ欧州各地に活躍の場を広げ、女性指揮者の草分け的存在マリン・オルソップからも高く評価されている。しかも、ポーランド初の国際的女性作曲家バツェヴィチの躍動的な序曲と、シューマンの妻クララが10代で作曲したピアノ協奏曲が続く演目や、後者でソロを弾く小林愛実、後半のサン=サーンスの交響曲でオルガンを弾く室住素子が並ぶ共演陣など、全編で女性音楽家にスポットが当たる。むろん、2021年ショパン・コンクール第4位受賞以来、着々と深みを増している小林がロマンティックなクララの協奏曲をいかに奏でるか? そしてニーブリンがサン=サーンスの壮麗な名作をどう構築するか?など、興味深い要素が目白押しだ。

■ #670(5月8日、9日)

#670(5月8日、9日)は、作曲家としても著名なスイスの名匠ミシェル・タバシュニクが、お得意のラヴェルやブラームスを振る。彼は、カラヤンに招かれて定期的にベルリン・フィルを指揮し、マルケヴィチやブーレーズのアシスタントも務めた歴史的な経歴の持ち主。ショスタコーヴィチを含めたテイストの異なる3作品、中でもブラームスの名作=交響曲第2番を作曲家の視点でいかに表現するか? 新鮮な期待に満ちている。またチェロ協奏曲のソロを弾く2015年チャイコフスキー・コンクールの覇者アンドレイ・イオニーツァの高度な技巧としなやかな表現への期待も大きい。

■ #671(6月12日、13日)

671(6月12日、13日)は、佐渡裕が、「ウィーン・ライン」最大の交響曲、マーラーの3番を披露する。同曲は全6楽章の超大作。多数の打楽器を含む巨大管弦楽に加えて、第1楽章では小太鼓、第3楽章ではポストホルンが舞台裏で奏し、第4、5楽章にアルト(今回はメゾ・ソプラノ)独唱、第5楽章に女声&児童合唱が入る。多様な音楽が楽しめる上に、暗くも重くもない曲調が大きな特徴。特に美しい第6楽章は感動必至だ。加えて佐渡のマーラーといえば、師バーンスタイン譲りの快演の予感が濃厚。特に25年1月の9番の入魂の名演を思えば、胸躍らずにはおれない。

■ #672(9月25日、26日)

#672(9月25日、26日)は、佐渡裕がマーラーと並ぶ「ウィーン・ライン」の交響曲の大家ブルックナーの5番を聴かせる。同曲は細密にして大伽藍の如き音楽。壮麗なオルガン的サウンドをはじめ、この作曲家の魅力が集約された“最もブルックナーらしい交響曲”である。佐渡は以前音楽監督を務めたオーストリアの名門トーンキュンストラー管や新日本フィルでブルックナーの名演を重ねてきた。今回はそうした経験値も反映したダイナミックな音楽が待っている。

■ #673(10月17日18日)

673(10月17日、18日)は、指揮、ピアノ、作曲と3役をこなすフィンランドの才人オリ・ムストネンが登場。その全ての才能を発揮する。自作も興味津々だが、ベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」の至難な弾き振りは大注目。現代屈指のピアニストとしての辣腕と、メンデルスゾーンの「スコットランド」交響曲を含めた新鮮なアプローチを満喫したい。

■ #674(2027年1月23日、2日)

674(2027年1月23日、24日)は、佐渡裕がマーラーと同時代の大家R. シュトラウスの「英雄の生涯」を壮大に奏でる。ここは、佐渡の巧みな彫琢に加えて、コンサートマスターのソロをはじめとする新日本フィルの名技が楽しみ。すなわちコンビの進化を実感する公演でもある。華麗で美しいサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲を弾くモルドバ生まれのアレクサンドラ・コヌノヴァも要注目。ハノーファー国際コンクール優勝後、ロンドン響やパリ管などの著名楽団と共演を重ねる彼女は、佐渡も称賛する逸材だけに、流麗かつ温かな名人芸で、フランスの看板協奏曲の魅力を明示してくれるに違いない。

■ #675(2月20日、21日)

675(2月20日、21日)は、今シーズン随一のサプライズ公演。世界的リコーダー奏者であり、近年は指揮者としても評価の高いドロテー・オーバーリンガーが、ドイツのバロックや古典を披露する。まずは超絶技巧が冴えるテレマンのリコーダー協奏曲で、稀代のヴィルトゥオーゾぶりを体感。リコーダーの吹き振り自体がレアだし、次のバッハの管弦楽組曲第3番(かの「G線上のアリア」を含む作品)を含めて、モダン・オーケストラの公演では稀な生体験を得られる。またバッハと後半のベートーヴェンの交響曲第2番は共に明るいニ長調の響きが魅力。本公演は原点から次のシーズンへ向かう輝かしい一歩ともなる。

すみだクラシックへの扉

  お馴染みの名曲を中心に、クラシックの魅力を満喫できる週末午後のコンサート。今シーズンは、国や地域をテーマにしたプログラムや、実力派邦人指揮者とフレッシュな才能の饗宴が耳を楽しませる。が耳を楽しませる。

■ #38(4月17日、18日)

38(4月17日、18日)は、「オーストリア」をテーマに、若き女性音楽家が漲る才能を知らしめる。指揮のアルマ・ドイチャーは、2005年イギリスに生まれ、作曲家、指揮者、ヴァイオリニスト、ピアニストとして驚異的な実績を重ねるまさに天才音楽家、ヴァイオリンの中原梨衣紗は、数々のコンクールで成果をあげ、25年の新日本フィル “新しい風”名曲コンサートにおけるパガニーニの難曲協奏曲第1番で皆を驚嘆させた10代の精鋭。プログラムは、モーツァルトとベートーヴェンの文句なしの名曲だけに、両者の類い稀な手腕を存分に感知できる。

■ #39(5月15日、16日)

39(5月15日、16日)は、「北欧」がテーマ。2024年の東京国際指揮者コンクールで優勝したギリシャ出身のコルニリオス・ミハイリディスと、急速にキャリアを重ねる俊英ピアニスト・角野未来(角野隼斗の妹)が、シベリウスとグリーグの名曲を披露する。フランスを拠点に活動する角野の感性豊かな協奏曲も楽しみだし、自己主張の明確なミハイリディスの指揮にもぜひ触れたい。また後半の「ペール・ギュント」が抜粋版になったことで、物語に即した流れとソプラノの安川みくの清澄な歌声を味わえるのも嬉しい。

■ #40(6月5日、6日)

40(6月5日、6日)は、音楽監督・佐渡裕と人気ヴァイオリニスト・三浦文彰が、「ドイツ」を代表するブラームスのポピュラーな2作品を聴かせる。ヴァイオリン協奏曲では豊潤な三浦のソロ、交響曲第1番では佐渡の堂々たる表現が当然の聴きもの。これは、演目、出演者共に安心して楽しめるコンサートだ。

■ #41(7月3日、4日)

41(7月3日、4日)は、「邦人作品の伝道師」たる指揮者・藤岡幸夫と、若き日から活躍顕著なヴァイオリニスト・木嶋真優が、「日本」のオーケストラ作品の魅力を再認識させる。民族的な芥川也寸志&伊福部昭、モダンな吉松隆というタイプの異なる作曲家の─しかしどれも明快な─作品を、藤岡の熱いタクトで味わい尽くす貴重な機会でもある。

■ #42(9月11日、12日)

42(9月11日、12日)は、「フランス」をテーマにしたラヴェル・プログラム。その代表作を、沼尻竜典(作曲家でもある)の鋭い分析力とパッションを併せ持った指揮で堪能できる公演だ。エリザベート国際コンクールの第2位受賞で話題を呼んだピアニスト・久末航が弾く「左手のためのピアノ協奏曲」も聴き逃せない。

■ #43(10月23日、24日)

43(10月23日、24日)は、前音楽監督・上岡敏之が、「ドイツ」オペラの巨匠ワーグナーの頂点『ニーベルングの指環』を大指揮者マゼールが編曲した「言葉のない『指環』」をたっぷりと聴かせる。原曲は上演に4夜を要する長大な作品だが、当編曲はその美味しい部分だけを管弦楽で繋いだ巧みな構成。長くドイツに拠点を置く上岡の個性的なアプローチにも期待がかかる。

■ #44(11月13日、14日)

44(11月13日、14日)は、「東欧(ハンガリー/チェコ)」がテーマ。ウィーンを中心に活躍する世界的ヴァイオリニスト&指揮者・ジュリアン・ラクリンが、リストとドヴォルジャークの究極の名作を披露する。ラクリンの表情豊かな表現に加えて、やはりウィーンを拠点に実績を積んでいるYouTubeでも人気のピアニスト・石井琢磨のソロでリストの協奏曲を体験できるのも魅惑のポイント。

■ #45(2027年1月29日、30日)

45(2027年1月29日、30日)は、佐渡裕と、ハノーファー国際コンクール優勝後、活躍の場を広げるヴァイオリニスト・アレクサンドラ・コヌノヴァが、「ロシア」の名品を聴かせる。コヌノヴァが弾くハチャトゥリアンの民族的な協奏曲で皆が称賛する腕前を知るのも楽しみだし、チャイコフスキーの4番は佐渡にピッタリの情熱的な交響曲。これは1年のエキサイティングな締めくくりとなる。


柴田克彦(しばた・かつひこ)
福岡県生まれ。音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。雑誌、コンサート・プログラム、Web、宣伝媒体、CDブックレットへの、取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や講座も受け持つなど、幅広く活動中。著書に『山本直純と小澤征爾』(朝日新書)、『1曲1分でわかる!吹奏楽編曲されているクラシック名曲集』(音楽之友社)。