2022/2023シーズン 片桐卓也 の ≪鑑賞のツボ≫トリフォニーホール・シリーズ / サントリーホール・シリーズ

新日本フィルハーモニー交響楽団の持つ芸術性をぞんぶんに発揮するだけでなく、この特別なシーズンは、思い出に残った「あの演奏会」の記憶も蘇るスペシャルなプログラムとなった。


■ #641(5月21日23日)には2023年から音楽監督に就任する佐渡裕が登場。彼は1990年の「特別演奏会」で同じプログラムを披露したが、それがとても思い出深かったので、今回あらためて再現される。R. シュトラウス「ドン・ファン」に続き、佐渡の師であるバーンスタインの「前奏曲、フーガとリフス」が演奏されるが、そこにはM. P. ミランダ(クラリネット)、高木竜馬(ピアノ)、高橋信之介(ドラムス)が参加。さらにはベートーヴェンの交響曲第7番も音楽の熱い高まりに胸躍る。


■ #642(7月9日11日)にはクリスティアン・アルミンクが登場する。2003 年10月から2013 年8月まで第3代音楽監督を務めたアルミンクは、新日本フィルの音楽的な発展に大きな役割を果たし、記憶に残る数々の演奏を行った。カール・オルフの名作「カルミナ・ブラーナ」を後半に置き、今井実希(ソプラノ)、清水徹太郎(テノール)、晴雅彦(バリトン)をソリストに起用する。
前半はバルトークの「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」で、つまり20 世紀前半の重要な管弦楽曲を並べる。30代の若き騎士だったアルミンクとは違い、ヨーロッパでの様々な経験を経て成熟した彼の指揮ぶりに期待したい。


■ #643(9月10日12日)は名匠マルクス・シュテンツが登場。1965年生まれのシュテンツは、岩城宏之の後任としてメルボルン交響楽団の首席指揮者・芸術監督となり、欧州ではケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団の音楽監督として活躍。ベルリオーズ「ローマの謝肉祭」、ラヴェル「マ・メール・ロワ」、ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」というプログムは、実は小澤征爾が指揮した新日本フィル創立記念コンサートとまったく同じプログラム。それを聴いたという方は、ぜひ50年後の新日本フィルの「現在」の音を楽しんで頂きたいし、その当時生まれていなかったという方は、このコンサートで歴史の重さというものを実感してほしい。


■ #644(10月1日3日)は日本を代表する指揮者のひとり尾高忠明が、名歌手ユリアーネ・バンゼを招き、「オール・リヒャルト・シュトラウス」プログラムのタクトを取る。バロックから現代まで、特にドイツ歌曲の最高の歌い手として注目を集めるバンゼが「4つの最後の歌」を歌うことも嬉しいが、「英雄の生涯」では、独奏の多いコンサートマスターを含め、オーケストラのポテンシャルが発揮されるだろう。


■ #645(11月3日4日)は1988年ロシア生まれのマキシム・エメリャニチェフが登場。12歳で指揮者デビューを飾り、クルレンツィスの元で通奏低音奏者として演奏に参加し、現在はスコットランド室内管弦楽団の首席指揮者として活躍するという天才肌のエメリャニチェフの指揮に触れる貴重な機会となる。ピアノにはアレクサンドル・メルニコフを招き、プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番が演奏されるし、後半のラフマニノフ「交響的舞曲」ではその天才ぶりの一端を聴かせてくれることだろう。


■ #646(1月21日23日)は第2代音楽監督(1983〜1988)として楽団をリードし、その後も活躍を続ける井上道義が自作のミュージカルオペラ『A Way from Surrender〜降福からの道〜』op. 4を指揮する。すでにキャストのオーディションも始まり、上演に向けての準備開始といったところ。内容は、井上の両親が過ごした太平洋戦争を挟んだ時代をモチーフにした物語、国とは、家族とは、愛とは何かを問う作品と言う。戦後という時代を通して人生と音楽をあらためて振り返る、そんな気持ちが込められているようだ。バーンスタイン「ミサ」、モーツァルト『フィガロの結婚』の新解釈版などを成功させて来た井上の、渾身の一撃を待とう。


■ #647(3月4日4日)はインゴ・メッツマッハーがやって来る。
2013~15年にConductor in Residenceとして画期的なプログラム構成の演奏会を聴かせてくれたメッツマッハー。今回はヴァイオリンのクリスティアン・テツラフという強力なパートナーを得て、ベルク「ヴァイオリン協奏曲」を披露。その前にはウェーベルン「パッサカリア」、後半にはシェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」という〈新ウィーン楽派〉プログラムで、そのシャープな感性を示してくれるだろう。

1972年に結成された新日本フィルハーモニー交響楽団は2022年で創設50周年という大きな節目のシーズンを迎える。2つのシリーズの聴きどころをまとめてみた。