東野珠実氏(伶楽舎)による雅楽童話『ききみみずきん』解説雅楽について

2022年2月23日(水・祝)に開催するSMBC presents こどものための音楽会 雅楽とオーケストラの共演では、伶楽舎 東野珠実脚本・作曲:ききみみずきん(雅楽童話)をお届けします。笙演奏家であり、作曲家でもある東野珠実氏に本作品を解説していただきました。

平安時代から伝わる雅楽には、舞を舞う「舞楽」と音楽だけを楽しむ「管絃」があります。本公演では、その両方をご覧いただきます。


舞楽 胡飲酒(こんじゅ)

異国の人がお酒に酔ってこの曲を演奏し、その姿を舞にしたとされている曲です。髪を振り乱し、酔っぱらった様子が、ゆったりとした舞の動きの中に表現され、曲も、繰り返される旋律の中に大らかな楽しさのある曲です。豪華な装束と鼻高の赤茶色の面をつけて舞います。

平調音取(ひょうじょうのねとり)

曲の調子を示す音調べの短い前奏曲です。平調とは平調(ミ)の音を主音とする調子です。

越天楽(えてんらく)

雅楽の曲の中で最もよく知られた曲で、この優雅な旋律は、「越天楽今様」として歌詞をつけて歌われるなど、いろいろな形で広く親しまれています。この平調の越天楽の他に、渡物(わたしもの=移調曲)として盤渉調(ばんしきちょう)、黄鐘調(おうしきちょう)の曲があります。


SMBC presents こどものための音楽会 雅楽とオーケストラの共演

2022年2月23日(水・祝) 14:00 開演 習志野文化ホール

出演者

指揮:大井 剛史 雅楽:伶楽舎

プログラム
  • 胡飲酒(舞楽)  こんじゅ
  • 平調音取 越天楽(管絃) ひょうじょうのねとり えてんらく
  • 東野珠実脚本・作曲:ききみみずきん(雅楽童話)
  • オーケストラの楽器解説
  • 松平頼則 編曲:越天楽より(オーケストラ) えてんらく
  • 外山雄三:管弦楽のためのラプソディー(オーケストラ)
  • ホルスト:組曲「惑星」 op. 32より「木星」(雅楽との共演/編曲:山口尚人・東野珠実)

 

https://www.njp.or.jp/concerts/25675

=大人の皆様へ=

「ききみみずきん」は、日本でよく知られた童話です。不思議な頭巾をかぶると、鳥や動物の声が人の言葉となって聞こえてくるというお話です。ここに登場する「ずきん」は、現代でいえば、知らない国の言葉を即座に翻訳してくれるスマートフォンのような便利なメディアです。そして、主人公の彌祐(YASUKE)は、このメディアを駆使して人生を切り拓くのでした?!

ところで、雅楽では、初めに”唱歌”という旋律をなぞったような歌を習います。古典の唱歌には、言葉としての意味はありませんが、音楽を言語化して捉えるという発想はとてもユニーク且つ記憶の身体性に適っており、私は、雅楽千年存続の秘密の一つではないかと思うのです。

そこで、雅楽童話「ききみみずきん」の世界では、雅楽古典曲に現れる音型の中から特徴的なフレーズを選び出し、これを鳥や動物たちの鳴き声に見たて、さらに日本語の語感に当てはめて、物語のセリフに翻訳してみました。もちろん、この作業を手伝ってくれる便利な翻訳機はありません。しかし、楽器各々の古典的な奏法にこれらを発見する楽しさは、思えば子供の頃、かっこいいと思う新しい言葉に出逢うたび、それを何度も唱えて遊んだ経験と重なります。そう、使い古された言葉が子供にとっては新鮮なように、千年の歴史を持つ雅楽は、発見と咀嚼の喜びに満ちているのです!

さて、この作品は単なる音型の翻訳にとどまらず、聴き手のアナタに更なる謎掛けとトランスクリプションを期待します。演奏される曲中に、何種類の生き物が登場するか、どんな意図を掴みとっていただけるでしょうか?