◆訊き手:上田弘子(音楽ジャーナリスト)

今夏7月にスタートする、新日本フィルハーモニー交響楽団(以下NJP)の新シリーズ。音楽界に“新風”を届けてくれる、気鋭の演奏家が登場する「“新しい風”名曲コンサート」。第1回は、数々のコンクール入賞で話題の新星、ピアニストの佐川和冴さんが登場する。NJPとは1月の「東京音楽コンクール優勝者コンサート」以来の共演となる。ここで佐川さんの素顔をご紹介しよう。


-今年の1月、NJPとはベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第2番」で共演され、新春に相応しい明るくエネルギーに満ちた名演でした。

佐川 すでにチームとしてまとまっているオーケストラの方々の中に、「はじめまして」のピアニストが一人なので、コンチェルトはソロとはまた別の緊張があります。NJPとは今年の1月が初共演でしたが、オーケストラのメンバーほとんどの方が「楽しみにしてるよ」とか「良い音楽を作ろうね」と声を掛けて下さり、嬉しかったし心強かったです。本番は気持ち良く弾けて、素晴らしい音楽空間を実感したのですが、その皆さんとまた共演できることが本当に嬉しいです。

-これまでコンクールの本選ではモーツァルト、ベートーヴェン。ソロでもわりと古典派が多いので、この新シリーズでのラヴェルの「ピアノ協奏曲」を佐川さんがどう表現されるのか、とても楽しみです。

佐川 自分のレパートリーにフランス作品は多くはないのですが、ラヴェルのピアノ協奏曲は大学の先生からも「合ってると思うよ」と言われていたので、このタイミングで弾けるとは!と練習に熱が入っています(笑)

-ラヴェル、そして今回のピアノ協奏曲には、どのような印象を持っていますか?

佐川 ラヴェルの写真からは神経質で気難しい印象を受けますし、事実そういう一面はあるようですね。でも彼の音楽を弾いてみると、古典的な部分がかなりあって、かと思うとジャズっぼいところもある。ピアニズムは独特で、聴くのと弾くのとでは全く違うので、興味の尽きない作曲家です。

このピアノ協奏曲ですが、本当に難しいんですよぉ!でも第1楽章の8ページの下あたりからはワクワクするし、カデンツァも好きだな。第2楽章は全部好き。美の極みの世界ですよね。ところが一瞬たりとも気を抜けない、本当に怖い曲なんです。あれ?今、どこを弾いているんだっけ?となっちゃうので。第3楽章は、躍動感のあるところなど、特に自分らしさを出せるのではないかと思っています。

-さかのぼって、子供時代のこと。ピアノ少年だったんですか?

佐川 母が幼稚園の先生だったので、小さい頃からピアノに馴染みはありましたが、正式に習い始めたのは小学2年生です。ピアノは好きでしたが、友達と遊ぶことも大好きだったので、子供の頃は暗くなるまで外で遊んでいました。

中学時代は卓球部。県大会までいきました。部活を口実にピアノの練習をさぼったりもしましたが(笑)、高校受験を機に、本格的に音楽をやっていこうと決心しました。

-そして東京音楽大学付属高等学校へ入学されて、その当時から注目されていましたよね。その後、東京音楽大学、同大学院へ。

佐川 最初に習った地元の先生が、僕の個性を大事にして下さっていたと思います。だからピアノが嫌いにならなかったですし。ところが音大の付属高校を受験するにあたり、それまで好きで弾いていただけなので予備知識がなく、専門的な勉強の多さに驚きました。そこで出会ったのが今の恩師の石井克典先生で、先生のお陰でここまで来られたことに、本当に感謝しています。

先ほど「オーケストラはチーム」と言いましたが、僕は皆で何かをやるのが好きなので、オーケストラの皆さんが羨ましいです。ピアノは一人だけでも完結するので。なので僕自身はアンサンブルも好きで、付属高校時代の友人とピアノ・トリオを結成したんです。高校が護国寺駅だったので、「Trio Gokokuji」という名前で。今は3人それぞれ拠点も活動範囲も違うので休演中ですが、いつかまた活動再開したいです。

-充実の東京音大キャンパスライフですね。

佐川 そうでもないんですよ。誰にでも壁や転機はあると思いますが、僕も音楽や将来のことなど、いろいろ悩む時期がありました。大学3年生のとき、全く違うことをやってみようと思い立って、アルバイトを始めたんです。いろいろ職探しをして、ベビーシッターのアルバイト。

-はぁ?ちょっと意外な展開すぎて、頭がついていかないのですが(笑)。

佐川 母が幼稚園の先生で、僕も子供が好きなので、それほど無縁な世界でもないと思って申し込みました。男性の保育士は少ないので、わりと需要があるんです。特に男の子がいるお宅からの依頼だと、仮面ライダーごっこやレゴで遊んだりして喜ばれましたよ。うかがったお宅に電子ピアノがあると、弾いて見せたり教えたり。楽しかったなぁ。そのときの写真、お見せしましょうか。

-あら…ピンクのエプロンのピアニスト(笑)。でも、今のお話をうかがって合点がいきました。佐川さんが育った環境や教育歴など、とても温かくて人間味に溢れています。それが佐川さんの演奏に表れていますね。

自由闊達で瑞々しいモーツァルトや、果敢に攻める革新的なベートーヴェン。ショパンでは誠実に楽譜を読んで真摯に弾き進めていき、ヴィルトゥオーゾ作品では溢れるパッションのピアニズム。どの瞬間にも生命力があって音楽が楽しい。それが今度はラヴェルで聴けるので、今年の夏の思い出になりそうです。

では最後に、色彩感いっぱいのラヴェルなので、色の連想を。これから例に出す色について、瞬間に頭に浮かんだものをお答え下さい。

佐川 ええ!なんかドキドキするなぁ(笑)。

-青。

佐川 空。

-緑。

佐川 森。

-黄色。

佐川 バナナ。それと、しまじろう。僕、しまじろうが好きで、ぬいぐるみも持っています(笑)。

-赤。

佐川 血。

-金と銀。

佐川 ゴールドメダルと1円玉。

-白。

佐川 ティッシュ。

-黒。

佐川 夜。それも眠って目を瞑ったときの暗さ。

-ちなみにお好きな色は?

佐川 黄色と紫。しまじろうとヒマワリの花の黄色。紫は、半蔵門線の色。子供の頃は電車の運転手にもなりたくて、特に半蔵門線が好きなんです。

-今秋10月からはドイツへ留学ですね。しばらく佐川さんの演奏を聴ける機会が少なくなると思うので、7月20日の新シリーズ「新しい風」公演には、多くの方にご来場いただきたいです。

佐川 聴いて下さるお客様には、いつもパワーをいただいています。弾きながら感じるんですよ。温かいものを。まだまだ勉強することばかりで、とにかくコツコツ積み重ねているところです。皆さんに喜んでいただける音楽をお聴かせできるように、頑張ります!

演奏会のご案内

指揮:大井剛史 ピアノ:佐川和冴*

  • ビゼー:「アルルの女」第1組曲、第2組曲
  • ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調*
  • ラヴェル:『ボレロ』

小学生以上18歳以下無料招待も実施中!

18歳以下のお子様1~2名(無料ご招待)あたりご同伴の保護者(19歳以上)1名様はチケット代金が一般価格より半額に!

関連情報

次世代のクラシック音楽界を担うピアニスト・佐川和冴さんよりメッセージ(新日本フィルハーモニー交響楽団 YouTube)

第21回東京音楽コンクール 優勝者コンサートでの演奏は東京文化会館チャンネル Tokyo Bunka Kaikan Channelでお聴きいただけます。

https://www.youtube.com/watch?v=AKaPBqXxm6s&t=4326s