2024年末で指揮活動からの引退を表明している井上道義との最後の演奏会。まずはこの点だけでも必聴だ。しかも新日本フィルは井上が日本で最初にシェフとなった楽団。1983~88年に音楽監督を務め、通算400回以上の共演で快演を繰り広げてきた。引退を発表後、各地の楽団と一期一会的な名演を続けている井上だが、とりわけ関係の深い楽団との最後の共演となれば、両者の思いがスパークした渾身の名演必至だ。
演目が、井上のライフワークたる十八番ショスタコーヴィチの最大の交響曲「レニングラード」である点も特筆される。本作は、1941年に戦火のレニングラードで反戦と愛国心を込めて作曲された歴史的大作。中間部の壮絶な盛り上がりで名高い第1楽章以下、巨大な壁画の如き音楽が展開される。壮大で熱く高揚する同曲が、最後の共演にこの上なく相応しいのは言わずもがな。井上&新日本フィルの到達点を、しかと耳に焼き付けておきたい。