NJP50周年誌こぼれ話 その1 率直であること。

4月下旬に新日本フィル50周年誌が刊行されました。今号から1年間、ページ数の都合などにより割愛せざるを得なかったエピソードを、編集の齋藤克氏にご紹介いただきます。


 

率直に話すとは、婉曲することがないから、言葉を選ばず無神経に話していると捉える人もいるだろう。だがそれは違う。裏表なく正直に伝えているのであって、いわば正々堂々とした人の態度だ。

「50周年誌」の第1章冒頭にある1972年度の日本芸術院賞授賞式での小澤征爾さんは、率直に日本のオーケストラの窮状を昭和天皇へ伝えたのである。後に、その状況だけが一人歩きして ‘陛下へ直訴した’ となったのだろう。

率直な人の言葉とは正直であるが故に、その発言が誤解を招いたり、あるいは故意に誇張され喧伝されることもあるということだ。

こんな話もある。NJP事務局長時代の松原千代繁さんが、当時まだ桐朋学園大学在学中の豊嶋泰嗣さん(NJP桂冠名誉コンサートマスター)をコンマス候補として小澤さんに紹介すると、返ってきた答えは「チヨ(松原さんの愛称)、俺の演奏会に学生のコンマスを座らせるのか」と誠に率直。また、すみだトリフォニーホールへのフランチャイズの話が持ち上がった当初、「なんでわざわざ東の方へ行くんだ」が、西の‘成城’育ちの小澤さんの返答だった。しかし、豊嶋さんの実力を知れば豊嶋さんを育てることに、当時の墨田区長である奥山澄雄さんの熱意を受けホールの素晴らしさを納得すると、ホールの音響を完成させることに、小澤さんは邁進していくのである。

いずれにしてもNJPの強者奏者たちは、この小澤さんの率直さを恐れることもなく、相手の顔色をうかがいながら話をする小澤さんの姿など思い描くこともなかった。

第50回の定期演奏会プログラムには、沢木耕太郎さんのコラム「恐怖の率直人間、小澤征爾」が掲載されている。小澤さんと、小澤さんの師である齋藤秀雄さんの率直さを取り上げているが、沢木さんは齋藤さんの率直さを正確に伝えるために、敢えて取材したテープをそのまま文章に写している。小澤さんに負けていない率直人間である齋藤さんの話は、明快で歯切れがよく、読んでいて気持ちがいい。こうした貴重なコラムは、ぜひアーカイブとして永遠に残してほしいと思う。

 
新日本フィル50周年誌「演奏は一期一会」

¥3,000(税込)

1972年からこれまでの新日本フィルの歴史を編纂しました。 小澤征爾、山本直純をはじめ、新日本フィルを創ってきた音楽家達の貴重な記録は必見。全208ページ、A4サイズ

※配送は日本国内のみ。

【付録】オリジナルCD
齋藤秀雄 指揮 モーツァルト:交響曲第39番第1楽章
山本直純 指揮 ブラームス:交響曲第1番第1楽章
小澤征爾 指揮 バッハ:管弦楽組曲第3番アリア
小泉和裕 指揮 R.シュトラウス:「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
井上道義 指揮 シューベルト:交響曲第8番第4楽章
C.アルミンク 指揮 フランク交響曲第2番第2楽章
上岡敏之 指揮 シューベルト:第5番第3,4楽章

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