コントラバスとの出会いは、中学の吹奏楽部に入った時です。一音出した瞬間、ビビっと「これだ!」と感じました。それ以来すっかりコントラバスにのめり込み、鏡の前でひたすらロングトーンなどの基礎練習に打ち込み、ほとんど独学で習得しました。

もともと一つのことに夢中になるとまわりが見えなくなるタイプです。将来を心配した両親に反対されつつ、レッスンに通わせてもらいました。今では当時の両親の気持ちが痛いほど分かります。本当に、いくら感謝しても足りません。福岡で師事した吉浦勝喜先生、藝大の永島義男先生と師にも恵まれ、大学、大学院と進むことができました。

転機になったのは、ドイツに留学してヴュルツブルク音楽大学で文屋充徳先生のレッスンを受けたことです。毎回「どういう音楽家、人間になりたいか」が常に突きつけられるようなレッスンで、とても苦しいものでした。心が折れそうになりながら、先生から出される100何種類ものボウイング(運弓)のエチュードをひたすらこなし、なんとか光が見えてきた……と思えたのは渡独して1年経った頃でした。期せずしてそれは、ドイツ語で日常会話が問題なくできるようになった時期と同じでした。ボウイングパターンが自分にインプットされて、弓と弦で自分の言葉を喋ることができた時と、ドイツ語が自分のなかに定着した時期が一致した、ということでしょう。今にして思えば、それは、芸術家として二本の足で立つために必要な試練だったのかなと思います。

コントラバスの魅力は、何と言っても音色の柔らかさです。楽器の構造上、強い音が出せず、波紋のように音が拡がります。「弦楽5部」のなかでコントラバスだけが楽器の起源が異なることもあり、他の4部を影から支える存在になっているように思います。ウィンナワルツでオーケストラ全体を進めていくのも楽しいですし、また、例えば「運命」の第4楽章でオルゲルプンクト(持続低音)を弾く時には、あたかも、巨人の心臓を動かしているような喜びを感じることがあります。オーケストラは生き物ですから、コントラバスがいることによってまわりがどう反応し、コントラバスの音がどう作用していくのか、見守っていただくと、面白い発見があるかなと思います。  

歴史や古地図が好きなことからお誘いいただき、NJPのnoteで「すみだ今昔さんぽ」を連載中です。こちらもご覧いただけると嬉しいです。