その朗読を聴いた瞬間、柔らかな声の音色とリズム感の心地よさに引きこまれ、初めて聴いたお話のなかに吸い込まれていくように感じました。青山の山陽堂書店で、米文学翻訳家の柴田元幸さん(“柴田さま”と呼ばせていただいています)と出会った時のことです。姉の影響で小さい時から本を読むのが大好きな私は、一気に柴田さまの虜になり、著作を読み始めました。そして、私が、ボランティアで朗読をしている母と一緒にヴァイオリンと朗読による小さな会を開いたと聞いた山陽堂書店のママさんの提案で、「柴田さまの朗読と共演できたら」という夢がふくらみました。おそるおそるお願いをお送りしたところ、なんと温かいOKのお返事! もう壁ドンされたような大興奮でした(笑)。そこから作り上げてきた企画が、5月の室内楽シリーズで実現します!

弦楽四重奏と朗読でどのようなコラボレーションができるのか、なにを弾きなにを語るのか─音と言葉の対話が始まりました。音合わせでは、私たちが弾く音にじっと耳を澄ませ、ご自身の膨大なポケットからお話を取り出して読まれる。その過程自体が私には至福の時です。最初にお話をした時「音楽で言葉の背中を押してほしい」と有難いお言葉をいただき、「はい、押し倒さないようにします!」とお答えしたのですが、いつも丁寧で優しく、温かく包みこんでくださるお人柄にも魅了され続けています。そして、作家・作品に謙虚に仕え、そのリズム、空気に純粋に近づいていこうとされる姿勢に、どれだけ学ばせていただいていることか!“知の巨人”には及ぶべくもありませんが、少しでも自分の可能性を広げたいと日々奮闘しています。

背中を押してもらう、といえば、尻込みしていた私に「やってみたことがないなら、やってみましょうよ!」と勇気づけてくださった山陽堂書店のママさんです。なにごとも「まず自分の前に置いてみる」─そこからすべてが始まると学んだのは彼女のおかげです。そして何といっても、このようなプロデュースを任せてもらえたのはNJPメンバーであるからこそ。柴田さまから日々学んでいる「作家に寄り沿う」「何事にも真摯に向き合う」姿勢を、これからの演奏活動の糧にしていきたいと思います。

(2018年2月)