「プロオーケストラのリハーサルを聴講することで得られるもの」について書くという機会をいただいた。筆者は聴く側の愛好家であり、アマチュアプレイヤーとして演奏もする。両面の視点からその面白さをまとめてみたい。
まず、リハーサルであってもプロのオーケストラサウンドに触れられるのは貴重な機会だし、なによりレベルの高さに改めて驚かされるはず。指揮者が演奏を止めて指摘を始めたとき、よほどのミスでもない限り、ほとんどの場面において何が問題だったのか明確にわかる人は少ないだろう。すでに完成に近い水準にあるところから何かに気づき、さらなる高みを目指して手入れしていく。プロフェッショナルの凄みも感じられよう。
その上で、アマチュア目線からとても興味深いのは、指摘されるポイントも内容も、プロとアマで実はほとんど変わらないこと。音程、バランス、大切な音、役割の確認、パート間の引き継ぎ等々。もちろん、その要求レベル
には大変な差があるわけだが、気にかけるべきポイントと指摘の言葉自体は共通することが多いのである。どの水準であっても、結局は基本的なことが大切という、ある種人生にも通じるような学びにもなる。
また、これは筆者(会社員出身)の持論なのだが、オーケストラのリハーサルは会社や組織のさまざまなシーンを凝縮していると感じている。とくにある程度の立場(管理職など…)の人にとっては深くうなずける場面が多いのでは。
例えば、奏者個人のミスが起きたとき、そのミスは一過性のものか、放置するとまずいものか、全体に注意を共有するべきか。指摘するなら全体の演奏の流れを止めるか、それには及ばないか。気づいていないと思われるのも困るし、目配せくらいはするべきか。当人を萎縮させぬよう、別の人への指摘でさりげなく気づかせるか……。
いずれも間違いではなく、ケースごとに対処法が違うが、その判断を間違えると自分への信頼感、さらには全体の士気を下げることすらあり得る。社会人なら誰しも経験がある局面だが、プロの指揮者はこの判断と決断を秒単位で行わないといけない。もちろんオーケストラの内部でも、コンサートマスターを中心に、同様の細かい判断とやりとりが無数にある。過酷な一瞬の積み重ねが、壮大なオーケストラ演奏につながるのである。
とはいえ、オーケストラの真の魅力(魔力といってもいい)は、こういった理屈が通じない瞬間かもしれない。指揮者の一振りでとてつもない音が響き、会場の全員が魔法にかかったような状態になることがある。それはプロといえども常にあるわけではない。分析をこえた、魔法のような瞬間に出会えたときの無上の喜び。
以上はリハーサルの魅力のごく一部ではあるが、人間同士の集まったオーケストラと指揮者が音楽を作り上げることの面白さが、わずかでも伝われば幸いである。
楽団にとっては、芸術的な意味でも運営面からも、あまり多くのリハーサルを公開するわけにはいかないだろう。それは理解した上で、やはりどのオーケストラも、多くの人がプロの響きで音楽作りの場を体験できる機会を、積極的に設けてもらえると嬉しい。長期的には各々のオーケストラのファンを獲得するきっかけにもなるだろう。
林 昌英(音楽ライター)
新日本フィルでは、リハーサルをご見学いただける機会を以下の通りご用意しております。
パトロネージュ会員様への特典として
公開リハーサルへのご招待を年6~8回、ご案内しております。
ふるさと納税型クラウドファンディングの返礼品として
2027年3月7日(日)すみだトリフォニーホールにて開催する「墨田区ふるさと納税コンサート」当日の午前中にホールで行うゲネプロ(コンサートの前に行う練習)をご覧いただけるプランがございます。