昨年4月にNJPに入団し、今年1月に正団員になりました。NJPは「いい音楽をしよう」という諸先輩方の想いが溢れたオーケストラだと感じています。入団2年目を迎える今、これまで以上に音楽作りに積極的に参加して、ひとつひとつのコンサートをより良いものにできるよう、少しでも貢献できればと思っています。

チェロは4歳で始めました。学生時代にロストロポーヴィチ氏の演奏を目前で聴いて感動した母が、息子が生まれたらチェロを習わせたいと思ったそうです。家族は皆、音楽好きで、妹はヴァイオリン、姉はピアノを習い、小さい頃は一緒に合奏したりしていました。

子どもの時からアンサンブルが好きでしたが、プロを志そうと決めたのは、高校1年の時、通っていた武蔵野音楽教室のオーケストラで『魔笛』の演奏をしたのがきっかけでした。モーツァルトの楽しく、あまりに美しく、時に儚い音楽に魅了され、「一度しかない自分の人生を、音楽に賭けてみたい!」という思いに駆られたのです。

学生の頃は伸び悩み、何度も挫折しそうになりました。それでも僕がチェロを続けてこられたのは、学者であった父の学問に対する一途な姿勢から、一つの物事に真剣に取り組み続けることの大切さを学んでいたからかもしれません。

2年前に父が亡くなった時、その1カ月前に入院中の病院でチェロを弾かせてもらったことがありました。喋ることもできず、感情も動かさず、万事に否定的になっていた父でしたが、その時は演奏を聴いたあと涙を流していたそうです。音楽にはたしかに、人の心を動かす力があると、あらためて感じました。「また弾きに来るね」と言ったのに、それが父に聴かせる最後の演奏となってしまいました。この経験から、一回一回の演奏を大切にしたいと思うようになりました。

音楽は、触れる者の心に響く時があります。僕自身、一人でバッハを弾いたり、オーケストラで演奏したりするなかで、辛い状況や深い悲しみから、何度も救われてきました。今、チェリストとして音楽に携われる幸せを感じています。よりいい響きで、よりいい音楽を突き詰めることを諦めず、これからもこだわり続けたいと思います。

(2019年4月)