1983年、アマチュア・オーケストラでヴィオラを弾いていた大学4年の夏、ジュネス・ミュジカル・ワールドオーケストラの公演に参加しました。世界各国から集まった優秀な音大生とともに、スペインで1ヵ月、練習とコンサートを続けて帰国したとき、プロの音楽家になりたい!と心が決まりました。このレコードはその時の演奏を収めた、私の宝物です。

一般大学で数学を勉強していましたが、自分が一番好きなことを仕事にしたいと思っていました。ジュネス・オケの経験がその気持ちに火をつけたのでしょう。当時NJP事務局にいらした上智大オケのOBに縁をつないでいただき、藝大の別科に通いながら翌年NJPのオーディションにチャレンジ、運良く入団することができました。入団当初はまわりのレヴェルの高さに圧倒され、自分の力量不足が情けなく、必死にさらい続ける毎日でした。しばらくは専門教育をしっかり受けていないというコンプレックスが抜けず、負い目を感じて、早く一人前になりたいと焦っていました。しばらく経ってから、仲間とお酒を飲みながらその話をしたところ、「そんなこと一度も感じたことなかったよ」と言われて、ふっと肩の力が抜けたのを思い出します。どたばたとあがく姿を、先輩たちが見守ってくれていたのもありがたかったです。

個人的に大切な思い出は、NJPのメンバーを中心にカルテットを組み、ロンドンで2週間、アマデウス・カルテットの講習会を受けたこと。そして、ドイツから帰国後NJPの首席奏者を務められた白尾偕子さんの個人レッスンを受けたことです。基本的な楽器の鳴らし方、音楽の表現の仕方を教えていただき、オケの仕事が楽しくなりました。偕子さんにつかなければ、今の自分はなかったと思っています。今も偕子さんから譲り受けた弓を大切に使わせていただいています。

入団から今年で40年。精進し続ける仲間たちに鼓舞されて、この年になっても、頑張っていれば少しずつ成長できることに勇気づけられています。あちこち痛くなってきてはいますが、精神的にはより楽しくなっている気がしますね。ここまで続けられたのは自分の力ではなく、これまで出会い、支えてくださった方たちのおかげです。自分にいいところがあるとすれば、まわりの方たちの思いを素直に受け止めることができたことでしょうか。

ヴィオラという自分の性格にぴったりの楽器と出会い、好きなことを一生の仕事にできたこと。なまけた分は自分に跳ね返ってくる、やりがいのある仕事を選べたこと。こんな幸せな人生はないと思っています。卒業まで1年半を切った今、さびしさはもちろんありますが、これまでNJPで過ごした時間が楽し過ぎて満足感のほうが強いです。卒業までの演奏をひとつひとつ大切に務め、これからもいい音楽人生を歩んでいきたいと思います。

(2024年10・11月定期演奏会プログラム掲載)