2024年3月の「すみだクラシックへの扉」第21回出演にあたり、一時帰国していた指揮者・上岡敏之氏(新日本フィル 前音楽監督)に、広報スタッフがお話を伺いました。


(広報)音楽監督在任中、オペラの曲やブルックナーの交響曲、マーラーの交響曲第2番「復活」など、壮大な曲を指揮していただいた印象が強く、2024年10月の「すみだクラシックへの扉」第26回で、モーツァルトの交響曲はどのような音楽作りをされるのか楽しみです。

  • モーツァルト:交響曲第39番 変ホ長調 K. 543
  • モーツァルト:交響曲第40番 ト短調 K. 550
  • モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K. 551 「ジュピター」

今日は、「上岡敏之のモーツァルト」を、お客様にもいろいろ想像しながら楽しみに待っていただけるようなヒントを、お伺いできればと思います。

そこで最初に、上岡さんがモーツァルトに共感する部分、自分と似ていると思う部分、逆に全然違うと思う部分について教えてください。

(上岡)モーツァルトのことはもちろん尊敬していますし、素晴らしい音楽家だと思っていますが、誰にでも愛されるキャラクターを持っている人で、不思議と、あまり苦労しないで自然に、お友達のように感じられる作曲家です。彼も楽譜の上から答えてくれるように感じます。自然ではないように本人が主張して書いている部分も、僕から見たらかわいらしくて。現代の私たちは、ロマン派も現代音楽も経験していますが、それを経験した上でも、彼の冒険心はやんちゃでかわいらしく、それほど遠い存在ではないと感じます。僕にはない部分ですが。

彼は楽譜の中での“文法”を犯しています。確執があったといわれる作曲家・サリエリは習ったことを完璧に、テストを受けたら100点をとるタイプで、一方モーツァルトは50点もいかない、例外ばかり。文法がきちんとしているよりも愛すべきものを聴いた人に感じさせてしまうような才能の持ち主です。僕にはそのような才能はないけれど、自由奔放なところは似ているかな(笑) 自分以外の人は自分とは違うと僕は思っていますので、萎縮する必要はないし、相手を自分の殻に入れる必要もないと思っています。そんな自由さはモーツァルトと近いのかなと思います。

(広報)モーツァルトの魅力をお客様に伝えるのは楽しみですね。

(上岡)ハイドンは、お客さんがここで笑うと決めて書く人ですが、モーツァルトは、決めても決めなくても書ける人だと思います。10月に取り上げる交響曲39番、40番、41番は、和音が浮かぶと曲が完成してしまうような、書き方の早い作品です。現代の音楽家は即興演奏ができるような教育を受けていますが、それでもモーツァルトのような方向に行く人は、現代でもまだ知り合ったことがありません。

音楽家であったお父さん(レオポルト・モーツァルト)が英才教育を施しましたが、彼はお父さんの限界を早いうちに超えてしまいました。習うだけではなく、自分で方程式を作るところまでいってしまった人です。数学者に例えならば、優秀な人は自分で規則を作っていきます。人の規則を完璧に学ぶ人と自分で規則を作れる人、その違いは大きいです。しかも聴衆にも受け入れられながら。僕自身がどこで何回演奏しても、演奏しているのが僕でなくても、いつも新鮮に聴こえる音楽であるところがすばらしいと思います。

(広報)2019年10月にモーツァルト「レクイエム」とシューベルト「未完成」を指揮された時、「夭逝した二人の天才の曲ですが、『かわいそうな人』ではなく、まだ希望にあふれていた若々しく二人の音楽をお届けしたい」とお話されていました。今年10月の演奏会では交響曲39番、40番、41番という32歳の時の3曲を指揮していただきますが、この時のモーツァルトはどのような時期だったと思われますか?

(上岡)忙しかったと思いますよ。モーツァルトはいつもお金に困っていました。曲を書かないと家族を養えないし、モーツァルトも遊び人。お酒を飲み、パーティの連続。少なくとも健康な生活は送っていなかったと思います。2か月ぐらいで3曲を書き、その間に他にも曲を作っていました。早く書かなければいけない、しかし書いているときは芸術の世界に没頭している。辻褄があっていないのですが、そこも彼のすばらしさです。

(広報)音楽家の素顔に迫ろうと思った時、上岡さんは音楽家なのでまずは楽譜を紐解かれるかと思いますが、それ以外に当たる資料はどんなものですか?

(上岡)子どもの頃は音楽より、本が好きでしたよ。ミッション系の幼稚園に通っていて、先生のピアノが上手だったので音楽に興味を持ちましたが、小さい頃は本を読んだり、画用紙を折りたたんで本にして、自分でストーリーを書いたりしていました。横浜に住んでいて外国人が身近な存在だったので、外国文学もたくさん読んでいました。

モーツァルトについて最初に読んだのは、小林秀雄の『モオツァルト』という本でした。

手紙にも興味があって、ショパンやモーツァルトの手紙を収めた本を読んでいました。手紙は作曲家本人の言葉なので。

(広報)今回(2024年3月)の「すみだクラシックへの扉」はとてもたくさんのお客様にお聴きいただきました。

(上岡)嬉しいです。任期中はなかなかでしたが(笑)


鬼才の呼び声が高い上岡敏之のタクトで贈るモーツァルト後期の交響曲3曲。想像の枠に収まらない新鮮な魅力にあふれていること間違いなしです。ぜひご来場ください。