新日本フィル50周年誌が刊行されました。 ページ数の都合などにより割愛せざるを得なかったエピソードを、編集の齋藤克氏にご紹介いただきます。


「50周年誌」の制作が本格的に始まる前、掲載事項をピックアップするための一助として、定期会員や元NJP楽員の何名かに、これまでのプログラムに目を通して印象に残っている演奏や記事、あるいは個人的な思い出などに付箋を貼ってもらうよう事務局が手配してくれた。そして、その中の一人(たぶん元楽員の方だと思う)の付箋の貼り方が適切で、たいへん助けられた。例えば、1985年11月のジェシー・ノーマンが登場した第134回定期に貼った付箋には、‘アンコールでのアカペラで歌った「赤とんぼ」は楽員も涙するほどだった’と丁寧に記されていた。


この感動は当日のホールにいなければ味わえない、少し大げさに換言すれば、その場にいた人だけに授けられる‘神からの贈り物’である。
 

「50周年誌」の36ページには「生の演奏を聞いたことがある人は、テレビから聞こえてくる音をどう受け止めているだろうか」という楽員の声があるが、これは86ページにある「あの演奏は絶対にCDでは再現できない」と東京文化会館でのムラヴィンスキーの演奏を評した金子健志さんの言葉と、どちらも視点をホールに置いているから表裏一体だ。

また、松原千代繁さんが「直純(山本直純)さんの指揮は、実際にオーケストラを振っているのを見ると、実に美しいんだ」と話していたが、指揮者の動き、さらに目に見えぬ息づかいなどもホールの聴衆だけが感得できるものだろう。


どれほど入念にリハーサルを繰り返しても、本番での完成度は神のみぞ知るである。だからこそ、オーケストラでもアンサンブルでも、一流といえども月並みな演奏に終わることもあるだろう、しかし同時に、一流だからこそ奇跡的な名演が誕生するのである。


ホールへ行こう。そして、一切の加工がない生の音、アコースティックなオーケストラ・サウンドのすばらしい響きを五感のすべてで受けとめよう。コンサートは間違いなく‘行った者勝ち’だ。

新日本フィル50周年誌「演奏は一期一会」

¥3,000(税込)

1972年からこれまでの新日本フィルの歴史を編纂しました。 小澤征爾、山本直純をはじめ、新日本フィルを創ってきた音楽家達の貴重な記録は必見。全208ページ、A4サイズ

※配送は日本国内のみ。

【付録】オリジナルCD
齋藤秀雄 指揮 モーツァルト:交響曲第39番第1楽章
山本直純 指揮 ブラームス:交響曲第1番第1楽章
小澤征爾 指揮 バッハ:管弦楽組曲第3番アリア
小泉和裕 指揮 R.シュトラウス:「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
井上道義 指揮 シューベルト:交響曲第8番第4楽章
C.アルミンク 指揮 フランク交響曲第2番第2楽章
上岡敏之 指揮 シューベルト:第5番第3,4楽章

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