新日本フィル50周年誌が刊行されました。 ページ数の都合などにより割愛せざるを得なかったエピソードを、編集の齋藤克氏にご紹介いただきます。


2020年2月26日、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、政府は向こう2週間の文化イベントの中止および延期を要請したが、自粛の規模は各自治体の判断に委ねられており、3月8日に川崎市のミューザ川崎シンフォニーホールで行われた東京交響楽団(東響)の無観客公演の無料ライヴ配信は、視聴者数が10万人を超える大きな反響を得たが、一方でNJPの本拠地であるトリフォニーホールは使用自体が許可されなかった。当時、NJPの運営委員の一人だったトロンボーンの山口尚人さんは、「NJPはかなり深刻な状況でしたが、なんとかしようと思ってもホールが使えず、東響の友人から無観客公演の成功話を聞くと、うらやましくもあり悔しくもあった」と振り返っている。


山口さんはまた、SNSを利用した「NJP楽員チャンネル」の運営もしていることから、NJP運営委員の会議で「SNSを使って何かできないか」と現状打開のボールを投げられた山口さんは、SNSではなくYouTubeを活用し、オーケストラ界初となるテレワーク演奏を実現するのである。


さて、現在YouTubeに公開されているほとんどのテレワーク演奏は、映像などの制作会社と協力し、最初に音楽(演奏)を録音、次にその録音を聞きながら各自が自分のパートを演奏するクリックトリックという手法を使っているから、映像と音楽がきれいに重なり、また、弾きマネや吹きマネが可能なので、演奏場所に防音の必要がない。この手法に比べると山口さんのテレワークはステージと同じく手作りなのである。譜面台にビデオカメラの替わりにスマホを置いたメンバーが本当に演奏しているから、どうしても防音への配慮が必要となり、現に山口さんも自身の家ではなく防音設備のある親戚の家で吹いているのである。さらに動画編集は山口さん一人の作業だから、参加メンバーが増えるにつれ、山口さんのPCは駄々をこねるようにフリーズを繰り返す。山口さんは「友達同士の演奏ではなく、NJPとしての演奏でなければ意味がなかった。音程やタイミングを合わせたり、最終の編集作業には苦労したが、一人ひとりが生演奏することで想像以上にステージと同じことができたのは大きな収穫だった。徐々にYouTubeにアップする画面がメンバーの心のよりどころとなり、オケの日常になっていった」と嬉しそうに話してくれた。

演奏活動こそオーケストラの日常そのものだ。NJPはテレワークによる演奏活動を通して日常を取り戻していったのである。

新日本フィル50周年誌「演奏は一期一会」

¥3,000(税込)

1972年からこれまでの新日本フィルの歴史を編纂しました。 小澤征爾、山本直純をはじめ、新日本フィルを創ってきた音楽家達の貴重な記録は必見。全208ページ、A4サイズ

※配送は日本国内のみ。

【付録】オリジナルCD
齋藤秀雄 指揮 モーツァルト:交響曲第39番第1楽章
山本直純 指揮 ブラームス:交響曲第1番第1楽章
小澤征爾 指揮 バッハ:管弦楽組曲第3番アリア
小泉和裕 指揮 R.シュトラウス:「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
井上道義 指揮 シューベルト:交響曲第8番第4楽章
C.アルミンク 指揮 フランク交響曲第2番第2楽章
上岡敏之 指揮 シューベルト:第5番第3,4楽章

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