日常が戻りつつある今、あらためて人とのつながり、ご縁で生かされていることへの感謝を感じています。3年前コロナ禍で日常が壊れ、ホールに集まって練習することすらできなくなった時、トロンボーンの山口君の声かけのもとに、それぞれの演奏の動画をスマホで自撮りし、彼の編集によってオンラインで「パプリカ」の合奏を発信することができたのは、とても大きな体験でした。「ダメもとでもやってみよう」という発案は、NJPの原点に通じるものだと思います。NJPに脈々と流れる、どんな時にも音楽に食らいつく情熱、あふれる熱い思いをあの時感じて、「これぞNJP」と胸が熱くなりました。離れていた分、絆も深まったように感じます。励ましをたくさんいただいたのも嬉しいことでした。

3月の室内楽シリーズも大切なご縁を続けることができたおかげで実現するコンサートです。2018年5月に続き、翻訳者の柴田元幸さんをお招きして、柴田さま(尊敬の念を込めてずっとこう呼ばせていただいています)の朗読とのコラボレーションをお聞かせします。原作のリズム、熱量をそのまま日本語に移し替えられようとされる柴田さまの朗読には、すばらしい演奏を聴いた時と同じ感動があります。常に謙虚に新しいことに挑まれる姿勢にも、いつも学ばせていただいています。NJPの心強い仲間たちとともに、最近集中して取り組んでいるベートーヴェン後期の弦楽四重奏曲をメインに、柴田さまが最近『ガリバー旅行記』の翻訳を手がけられたこともあり、テレマンの「ガリバー組曲」を取り上げることにしました。

そしてもう一つご縁がつないでくれた出来事を。ちょうど1年前、特別なご縁があって、100歳になるスタインウェイのアップライトを譲り受けることになったのです。戦時中も焼けずに生き延びたピアノです。同じ頃、カヌー仲間の友人がケヤキを組み合わせて作ってくれた譜面台も到着し、おかげで小さなホームコンサートを開くことができるようになりました。人とのご縁が、私の生活をまた豊かにしてくれています。

会えない人に思いをはせていたあの時期。それは、会ったことのない作曲家に思いをめぐらせ、楽譜に記された音や残された言葉を通じて、作曲家の声に耳を澄ますことにも似ていて、あらためて音楽に励まされました。すばらしい方々との出会いのおかげでここまで続けられたことを感謝して、これからも心から感じることを演奏で表現していけたらいいなと思っています。

定期演奏会プログラム2023年1月号掲載

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