NJP50周年誌こぼれ話 その4 天下の回りもの …「 財」は「材」より成る〈後編〉

新日本フィル50周年誌が刊行されました。 ページ数の都合などにより割愛せざるを得なかったエピソードを、編集の齋藤克氏にご紹介いただきます。

※常に話題となったNJPのオペラ。その集大成の一つが、1985年8月に井上道義さんが指揮をとった、二期会と藤原歌劇団との合同公演であるマスカーニの 『イリス』。日本初演だった。
井上さんは第2代音楽監督時代、本気で楽員の給与を3倍にしようと取り組んだ熱意あふれる人である。

 財政事情が厳しいと、やれ緊縮だ、やれ節減だと、思考回路が縮むのが常だが、NJPは知恵を絞り、創意工夫することで乗り切ろうと努める。  

 1985年1月の第126回定期でのモーツァルトの歌劇『コシ・ファン・トゥッテ』は、第2代音楽監督の井上道義さんが先鞭をつけた我が国初のコンサート・オペラ形式である。やたらとお金がかかるオペラの出費を抑え、その一方でオーケストラがピットではなくステージ上で演奏することで音楽性を前面に出したのである。  

 もちろん、いかに工夫を施してもすべての演奏会で利益が出るとは限らない。1988年6月の第160回定期でのオルフの「カルミナ・ブラーナ」は、その壮大な内容から大変な話題となったのとは裏腹に赤字額も相当なものだった。 それでもNJPは立ち止まることなく様々に挑戦を続けるが、演奏活動とは直接関係のない財政上の問題に直面する。それが財団法人化である。  

 当時、事務局長の任にあった松原千代繁さんが法人化の実現に向けて文化庁に赴いた際、最初に示された法人化に必要な資金は3億円。ノンスポンサーのNJPにとっては気の遠くなる金額だ。松原さんと支倉二二男さんが中心となり、しゃかりきになって資金を集めた。成城合唱団からの相当額の寄付や定期会員からの支援があったが、3億円は遙か彼方にある幻のごときゴールだった。松原さんが、「支倉さんとあっちこっちと歩き回ったが、電信柱を見れば電信柱に向かって ‘お金ちょうだい’ と思わず口走りそうになった」と言うほど、二人は資金調達に必死だった。  

 しかし、3億円は不可能なので、粘り強く文化庁と交渉を繰り返すうち、「松原さん、それでは1億円なんとか用意してください。ただし、1円足りなくても法人化はできません」が最終回答で、以後の経緯は「50周年誌」の67ページにある「Topics」のとおりである。  

 さて、NJPの転換期にはいつも篤志のある人の存在があった。人材を惹きつけ、材が財を作りだしたのは、「50周年誌」16ページにある山本直純さんの次の言葉に象徴されていると思えてならない。

 「あのオケの音をもう一度聴きたい。あの指揮者の演奏をもう一度聴きたい。聴衆にそう思っていただけるようにNJPは命がけで毎日やり続けている」。

新日本フィル50周年誌「演奏は一期一会」

¥3,000(税込)

1972年からこれまでの新日本フィルの歴史を編纂しました。 小澤征爾、山本直純をはじめ、新日本フィルを創ってきた音楽家達の貴重な記録は必見。全208ページ、A4サイズ

※配送は日本国内のみ。

【付録】オリジナルCD
齋藤秀雄 指揮 モーツァルト:交響曲第39番第1楽章
山本直純 指揮 ブラームス:交響曲第1番第1楽章
小澤征爾 指揮 バッハ:管弦楽組曲第3番アリア
小泉和裕 指揮 R.シュトラウス:「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
井上道義 指揮 シューベルト:交響曲第8番第4楽章
C.アルミンク 指揮 フランク交響曲第2番第2楽章
上岡敏之 指揮 シューベルト:第5番第3,4楽章

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