本好きだった父の書棚には、いつもたくさんの本が並んでいました。
経済や法律の専門書は近寄り難かったですが、子供の頃から写真や絵画入りの本をのぞいたり、随筆を手にとったりしていました。
私が歴史本を読むのが好きになったのも、父の影響でしょうか。父が亡くなったいま、あらためて、父のさまざまな本に育てられてきたのだなと感じます。
この本をはじめ、これらの蔵書の多くは、戦争の空襲を生き延びたものです。
仕事に必要な大切な本は防空壕に持っていったがために、かえって水浸しにして駄目にしてしまい、この本のように書棚に残したものが、ぶじ助かったと聞きました。
こうやってページをめくると、紙のにおいとともに幼い頃からのいろいろな思い出がよみがえってくるのは、やはり紙の本ならでは。デジタル化、ネット化になっていくのが、なんだか寂しいですね。
はやいもので入団して30年。NJP生活もゴールが見えてきました。
音楽好きの両親は一緒にNJPのコンサートにもよく来てくれました。
オーケストラに入ったことについて特に話したことはありませんが、楽しそうに弾く姿をみて喜んでくれていたと思います。
これからの日々も、ひとつひとつ大切に、心をこめて演奏していきたいと思います。
父が遺した蔵書のなかから、私が気に入っている一冊を持ってきました。鉄道省(現・運輸省)発行(昭和6年初版)の『温泉案内』。
「東西温泉番付」から各地の温泉の効能や特徴、行き方や旅館案内まで載っている温泉ガイドブックです。
父は実際に、この本を持って友人と温泉地をまわったと言っていました。
ちなみにこの本の番付では、東の大関が草津、西は有馬です。
台湾や満州、朝鮮の温泉地が含まれていたり、地方の温泉地の交通案内に「ここからは駄馬で行け」と書いてあったりするのも時代を感じさせます。
サギと鹿が温泉に足を浸しているユーモラスな表紙の絵や、色刷りの地図や広重の浮世絵が載っているのも楽しい。
旅行好き、食ベることの好きな両親のおかげで、毎年あちこちに家族旅行に出かけましたが、この本を見ていると、そのときの楽しさを思い出します。