アラブ首長国連邦(UAE)の首都・アブダビで毎年開催されている『アブダビ フェスティバル』(Abu Dhabi Festival)。2025年の開幕公演に、佐渡裕指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団が出演します。佐渡裕音楽監督と新日本フィルのコンビの初の海外公演となります。

2月8日(土)公演で演奏する芥川也寸志:弦楽のためのトリプティークの曲目解説(英語)を渡辺 和氏(音楽評論)にご執筆いただきました。アブダビではその英語版をお配りいたしますが、ウェブサイトでは事前に、日本語版を紹介させていただきます。

芥川也寸志:弦楽のためのトリプティーク

◆渡辺 和(音楽評論)

その名からお判りのように、作曲家芥川也寸志(1925-89)は20世紀前半の日本を代表する文豪芥川龍之介の三男として東京に生まれた。

2歳のときに自殺した父の遺品にあったストラヴィンスキーらモダンなクラシック管弦楽のレコードが、音楽との出会いとなる。第2次大戦中に上野の音楽学校に入学するも、学徒動員で陸軍軍楽隊に入隊。終戦後、ゴジラ音楽で世界的な人気を博す日本土俗派の作曲家伊福部昭に学ぶ。占領下の東京では、ダンスホールでGI相手にジャズを演奏。NHKの放送劇に音楽を書き、生計を立てた。結果として、世相と共に周囲に流れる様々な響きをしっかり吸収することになった。

評論家石田一志は、『20世紀のアジアの作曲家たち』(財団法人日本作曲家協議会編、2002)で芥川を

「作風の上では、この時期(1950年代)、ソ連型の社会主義リアリズム音楽、特にプロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、カバレフスキーの影響を受けた作曲家は少なくない。(中略)これらの作品の躍動するリズム感や率直な旋律美はそれまでの日本のオーケストラ曲には聴けないものであった」

と評している。  

この弦楽合奏のための音楽は、若き芥川の作風を代表する傑作。1953年にN響指揮者だったクルト・ヴェスの依頼で書かれ、NYフィルで初演。翌年にはモスクワでも演奏されている。

第1楽章、アレグロ。第2楽章、アンダンテの「子守歌」。5歳の娘のための書かれた。中間部では、低弦に楽器の胴体を叩かせ打楽器の効果を求めている。第3楽章、江戸の祭りの喧噪のようなプレスト。

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