Interview

特別インタビュー

音楽監督 上岡敏之 これからの定期演奏会を語る 取材・文 柴田克彦(音楽評論家)

音楽監督 上岡敏之 これからの定期演奏会を語る

取材・文 柴田克彦(音楽評論家)


2018年9月、上岡敏之は、新日本フィルの音楽監督として3年目のシーズンをスタートさせた。
また同楽団は、2019年2月に第600回の定期演奏会を迎える。そこでコンビネーションの現況や600回定期への思い、そして自身指揮する3月の第601、602回定期について話を聞いた。


©堀田力丸

まずはコンビの現況。上岡は深化に手応えを感じている。 

「積み重ねの成果を徐々に実感しています。例えばR.シュトラウスの交響詩にはオペラに通じるテキストがあります。今はそれを一緒に作っていこうという一体感が生まれ、縦の線を気にせず物語に集中できるようになってきました。これがさらに深まったとき、他のオケでは聴けない音楽が自然に出てくるのではないかと思っています」

第601回定期は、モーツァルトの交響曲第31番「パリ」、ラヴェルのピアノ協奏曲、マニャールの交響曲第4番という捻りの効いた「フランス・プログラム」。

「フランスには色々な要素がありますので、モネのような印象派のラヴェルの曲と、ドラクロワに似てロマンティックなマニャールの曲を組み合わせ、フランスの印象を映すモーツァルトの曲を加えました」

 中でもマニャールの実演は珍しい。

「マニャールはデュカスと同系のフランス・ロマン派。しかも交響曲第4番には、他のフランス人が書いていない、彼だけのロマンティックがあります。流麗で歌謡性があり、フランス語のような木管の使い方もされている。あえていえば、フランスのシュトラウスですね」

 モーツァルトの交響曲も似た面があるという。

「モーツァルトの交響曲には、5小節や7小節といった割り切れないフレーズが多く、そのあたりがマニャールと共通しています。また『パリ』は、明るいニ長調ですが、諧謔的な面もあり、フランスの印象が正直に出ている部分と意地悪く見ている部分が混在しています」

対するラヴェルの協奏曲は、フランスらしさに溢れた作品だ。

「印象派の響きに、ジャズの要素やフランス人のユーモアが加わった、本当に洒落た曲。特に第2楽章のピアノとイングリッシュ・ホルンの対話は素敵ですね。ソロを弾くクレール=マリ・ル・ゲは繊細なピアニスト。フランスでは有名な奏者です」

©堀田力丸

第602回定期は、マーラーの交響曲第2番「復活」。

「ベートーヴェン的な意志の強さが感じられる曲。マーラーにしては健康的で、『第九』のようにポジティブな終わり方をするなど、彼らしくない作品ともいえます。特に素晴らしいのは第4楽章『原光』のアルト・ソロ。あそこは本当にマーラーの世界です」

 曲の開始部分も特徴的だと語る。

「ソの1音で始まりますが、これはとてもシンプルで、長調にも短調にもなれます。ですからどちらにも発展できるよう“普通のソ”として鳴らさないといけない。最初から短調として鳴らすと力が入りすぎてしまいます。また曲の雰囲気が明確になるまで時間がかかるので、他のマーラーの交響曲に比べて仰々しい。彼は物凄く大きなものを書きたかったのかもしれません。ただ、そんな自分を見つめながら作曲している節もあり、『蘇るだろう』という合唱の出だしは、自身に言い聞かせているようにも感じられます。いずれにしても曲を内面のドラマとしてうまく表現したいですね」

 第4楽章でソロを歌うカトリン・ゲーリングへの信頼も厚い。

「声域の広い歌手で、前回(2017年5月定期のワーグナー『ヴェーゼンドンク歌曲集』)はソプラノでしたが、今回はメゾの音域を歌ってもらいます。声の良さはもとより、あれほど素晴らしいドイツ語で歌える人はいません」

 

記念すべき第600回の定期は、ヒュー・ウルフが指揮するコープランド・プログラム。クラリネット協奏曲では、首席奏者の重松希巳江がソリストを務める。これは上岡とウルフが相談しながら決めたプロだという。

「新日本フィルは小澤征爾さんが作ったオーケストラですから、節目の600回には、ゆかりの深いアメリカ物をと考えました。そこで今年多く演奏されているバーンスタインを避け、作曲家としてはアメリカの第一人者であるコープランドの作品を選びました。ここではアメリカ人の指揮者が自国の音楽の魅力を伝えてくれます。また600回記念なので、主役はオーケストラ。ですからソリストも団員に務めてもらうことにしました。特に新日本フィルの木管は日本トップクラスで、各パートに優秀な奏者が揃っている点では世界でも上位。重松さんはその一人です。またアメリカ音楽は、私ができないレパートリー。オケにはそういうものも必要ですし、シェフとしての愛情をこめたプログラムでもあります」

それにしてもオール・コープランドとは、思い切ったプログラムだ。

「アメリカ的かつ聴きやすいという点で、コープランドは断トツです。アメリカ人の誇りのような音楽を書いた人で、デンマークで言えばニールセン。アメリカの大地やそこに生まれた人が皆もっている味覚を感じさせます」

 上岡は、第600回定期を「新日本フィルは、他の在京オケとは絶対に違う」ことを示すもの。また「ヨーロッパで通用するプログラムを組むような、文化の最先端に位置するオーケストラが、東京に1つくらいあってもいいと思うし、それを墨田区から作っていきたい」とも語る。

そんな思いを反映した各公演に改めて目を向け、ぜひとも足を運びたい。

関連演奏会

第600回 定期演奏会 ジェイド<サントリーホール・シリーズ>

2/7(木)19:00開演

  • コープランド:市民のためのファンファーレ
  • コープランド:クラリネット協奏曲*
  • コープランド:交響曲第3番 

指揮:ヒュー・ウルフ
クラリネット独奏:重松 希巳江*

演奏会詳細

第601回 定期演奏会 トパーズ<トリフォニー・シリーズ>

3/22(金)19:00開演、3/23(土)14:00開演

  • モーツァルト:交響曲第31番 ニ長調 K. 297「パリ」
  • ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調* 
  • マニャール:交響曲第4番 嬰ハ短調

指揮:上岡 敏之
ピアノ:クレール=マリ・ル・ゲ*

演奏会詳細

第602回 定期演奏会 ジェイド<サントリーホール・シリーズ>

3/30(土)14:00開演

  • マーラー:交響曲第2番 ハ短調「復活」

指揮:上岡 敏之
メゾ・ソプラノ:カトリン・ゲーリング
ソプラノ:森谷 真理
合唱:栗友会合唱団
合唱指揮:栗山 文昭

演奏会詳細

3/31(日)の#8 特別演奏会 サファイア<横浜みなとみらいシリーズ>でも同一出演者・プログラムで公演を行います。
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