Interview

特別インタビュー

上岡敏之インタビュー:マエストロの頭の中 Vol. 7

上岡敏之音楽監督インタビュー: マエストロの頭の中

Vol. 7

第7回 すみだ、横浜: 夢を育む街

©️堀田力丸

音楽を通じてひとつの世界を共有する感覚。

それが人と人の心をつなぐと信じています

2018年は、墨田区とNJPがフランチャイズ 30周年を迎える記念イヤーです。ホールが面す る北斎通りには2016年に「すみだ北斎美術館」 もオープンし、アートファンの注目を集めています。

「すみだにいる間はNJPのことに集中しますので、なかなか街歩きの時間がとれないのが残念です。北斎美術館にもまだ行くことができずにいますが、コンサートの前後に立ち寄れる距離に美術館があるというのは、素晴らしいことですね。我々も「すみだといえば新日本フィル」と言われるよう、あらためて頑張らなければと思います。」

 

─ドイツでは、ヴッパータール市の音楽総監督も務められました。文化、芸術と街づくりについてのお考えをお聞かせください。

 

「文化や芸術は街をひとつのものにすると考えています。オーケストラは文化のひとつの象徴です。 ドイツでもすべての街にオーケストラがあるわけではないのですが、文化がないところは、どうしても荒れてくるのですね。文化が支えとなって、人々の心がひとつになるというのでしょうか。NJPも、地域の人々に「自分の街にはこういうオーケストラがある」と誇りに思ってもらえるようなオーケストラに、もっとなっていきたいですね。」

 

─「街をひとつにする」といえば、スポーツや地域のコミュニティ活動にも共通します。いろいろな活動があるなかで、音楽にしかできないこと、オーケストラだからこそできることとは、何だと思われますか。

 

「目に見えない心の支えになる、というのでしょうか。「娯楽」という点では、音楽を聴くよりもっ と愉快なこと、面白いことがあるかもしれませんが、音楽は人生の支え、心の支えになります。
音楽は生まれ落ちた瞬間に消えていく。自分の心のなかにしか留めておくことができない芸術なのです。絵画や映像は見続けることができる。本も読み返すことができます。音楽が、 他芸術と異なるのがこの点です。消えてしまう瞬間から、音はどんどん自分のなかに入ってき ます。消えていくものを心のなかに留めておく ことができるとは、なんと素敵なことでしょう!

そして、その人の人生のさまざまなシーンで、支えとなり、友となる。人生の伴奏者になってくれるのが、音楽だと思います。」

 

─ それが人々の心をひとつにする?

 

「共有感というのでしょうか。コンサートホールにいるときは、ひとつの世界をみなで共有し、その感覚は音楽から離れたときにもひとりひとりの心に残ります。それが人と人をつなぐと信じています。

音楽が人の支えになることによって、人の心はより開かれていきます。そしてそれによって人は他者の心も受け止めることができるのです。そうやって少しずつ心と心がつながっていく、というのでしょうか。マテリアル(物質本位)な世の中であるからこそ、そうでない価値感が重要になるのだと思います。目に見えないものの大切さをみなが共有したとき、かけがえのないものが何か、わかるのではないでしょうか。音楽によって言葉にできない感動を共に体験することは、手に手をとって一緒に何かするという行為を超えて、ひとつの世界を共有する感覚を与えてくれるように思います。」

 

─マエストロは神奈川のご出身。特別演奏会サファイア<横浜みなとみらいシリーズ>を開催する横浜とも深い縁をお持ちです。

 

「茅ヶ崎で育ちましたが、それ以前、幼稚園に入る前は横浜の根岸にいました。根岸には米軍の住宅があって、ほかとは隔絶された、ちょっと違う世界であることが、子どもにもわかりました。外国人の子どもたちが遊ぶ様子を見て、憧れていましたね。 港にもよく行きました。客船が港に着くとブロンドの人たちがたくさん降りてきます。そのとき父に「海の向こうには、 全然違う世界があるんだよ」と言われたのが、ずっと記憶に残っていて、一度、向こう側の世界に行ってみたい、と思っていました。
実現にはずいぶん時間がかかり、かつ自費で留学するのはとても無理でしたから、ロータリーの奨学金に応募しました。あの奨学金のおかげで人生が変わりました。世界が開けました。」

 

─横浜は、マエストロの夢を育んだ街、といえますね。

 

「そうですね、横浜でシリーズをすることによって、そういう思いも伝えたい、という気持ちがあります。特に若い人たちに、もっと夢を持ってほしいですね。僕の場合は音楽でしたが、なんでもいいのです。好きなこと、やりたいことをみつけてほしい。 今の世の中、すぐに結果を出すことを求め られるでしょう? けれども「いまここ」で解決できなくとも、別のどこかで答えがみつかるかもしれない。それくらい広い視野でものを見てもらえるといいなと思うのです。人生はすごく楽しいものだと、多くの人に伝えたいですね。その気持ちを失わずに、いろいろなことにチャレンジして、夢を追い求めてほしいなと思います。」

201711月聞き手・文荒井惠理子